アパートやマンションなどの共同住宅で、万が一火災が発生してしまえば大惨事につながってしまいます。そのため、アパートマンションでは建物の規模に応じて消防設備の設置が消防法で義務付けられています。
消防法では、消防設備の点検および整備が管理者である企業の義務として定められていて、耐用年数に応じて設備の取替えを行う必要があります。
このページでは、マンションに設置が義務付けられている消防(消火)設備の種類や点検基準、大規模修繕に伴う消火設備の修繕や取替え目安について説明いたします。
消防法とは、火災や地震などから人々の安全を守り、被害を最小限に抑えるために定められている法律のことです。特に、マンションなどの防火対象物である建物の管理には、消防設備の点検や整備が管理者である企業の義務として定められています。
もし、点検の未実施や虚偽報告があった場合には消防法第44条の罰則が適用され、30万円以下の罰金又は拘留となる可能性があります。
アパートやマンションなどの共同住宅で延床面積が150平方メートル以上のものには、消防法により消防用設備等の設置が義務付けられています。
消防設備の種類には、大きく分けて「警報設備」「消火設備」「避難設備」「消防用水」「消火活動上必要な施設」の5つに分類されます。それぞれの概要と具体的な設備例、設置基準をそれぞれご紹介します。
警報設備とは、火災などが発生したことを入居者へ早期に知らせるための設備のことです。建物内に設けなければならない設備で、通報だけではなく、火災を感知すると、警報を鳴らし建物にいる人へ危険を知らせます。
代表的な警報設備は以下の通りです。
設備名 | 概要 |
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自動火災報知設備 | 火災の発生を検知して警報を鳴らす設備です。感知器と受信機から構成されており、感知器が熱や煙を感知したら受信機に火災が発生したことを伝達します。受信機は、非常ベルなどを鳴らし火災が起きたことを周囲の人に知らせるとともに、どこで火災が発生したかが分かるように火災地区をランプなどで表示します。 |
漏電火災警報器 | 漏電を検知して警報を鳴らす設備です。木造建築に多く見られるラスモルタル作りの建築物に設置義務があり、電気の漏洩による加熱出火を未然に防止します。 |
ガス漏れ火災警報設備 | ガス漏れを検知して警報を鳴らす設備です。ガス漏れが起きた場合、可燃ガスをいち早く検知し、警報を鳴らすことで建物にいる人にガス漏れの発生を知らせます。 |
消防機関へ通報する火災報知設備 | 火災が発生した際、消防機関へ通報するための設備です。火災発生時、手動起動装置を操作することで電話回線を使用して消防機関を呼び出し、蓄積音声情報により通報します。 |
非常警報器具 | 火災が発生したことを建物内の人に知らせるための器具です。拡声音や警報音などによって知らせるための警鐘・手動式サイレン・拡声器(メガホン)などが該当します。 |
非常警報設備 | 火災が発生したことを建物内の人に知らせるための設備です。非常ベルや放送設備などが該当します。自動火災報知設備の作動に連動させる、または放送設備を人が操作することで、建物内に設置されたスピーカやベルなどを通して災害の発生やその状況を知らせます。 |
住宅用火災警報器 | 住宅における火災の発生を検知して警報を鳴らす設備です。火災の発生を早期に感知し、警報音や音声で住宅内にいる人々に知らせることで、逃げ遅れによる犠牲を未然に防ぎます。消防法の改正によって、すべての戸建住宅、アパート、マンションなどに住宅用火災警報器の設置が義務付けられました。 |
設備名 | 概要 | |
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第1種 | 屋内消火設備 | 火災発生時の初期消火を目的とした設備です。一般的には、水源、加圧装置、起動装置、消火栓箱および非常電源などで構成されておりを延ばして大量の水を放射し、消火します。放水量が多く射程距離も長いため、消火器では消火不可能な段階の消火を目的として屋内に設置されます。 |
屋外消火設備 | 屋外消火栓設備は建物の周囲に設置され、建築物の1階及び2階部分の火災の消火を目的とした設備です。屋内消火栓設備と同様の構成で、地上式消火栓及び地下式消火栓があり、地上式消火栓の中には屋内消火栓と同様に格納箱に開閉弁、ホース及びノズルがセットされているものがあります。 | |
第2種 | スプリンクラー設備 | 火災発生時に大量の散水で初期消火を目的とした設備です。一部のスプリンクラー設備を除き、火災によって発生した熱などを自動で感知し、天井などに設置されたスプリンクラーヘッドから散水して消火します。 |
第3種 | 泡消火設備 | 火災発生時に自動的にヘッドから泡を放出することで消火を行う設備です。水による消火が難しい油火災などの消火を目的としており、泡による冷却効果と、油膜などを覆うことによる窒息効果によって消火します。 |
非常警報器具 | 火災が発生したことを建物内の人に知らせるための器具です。拡声音や警報音などによって知らせるための警鐘・手動式サイレン・拡声器(メガホン)などが該当します。 | |
不活性ガス消火設備 | 消火剤として不活性ガスを使用し、窒息効果によって消火を行う設備です。消火後の汚染が少なく、電気絶縁性に優れていることから、電気室や美術館、精密機械などが置かれた場所に設置されることが多いです。 | |
ハロゲン化物消火設備 | 消火剤として粉末薬剤を使用して消火を行う設備です。噴射ヘッドやノズルから消火粉末を放射して、空気遮断による窒息効果や、燃焼の継続を抑制する抑制効果によって消火します。 | |
粉末消火設備 | 粉末消火薬剤を火源に大量放射することで消火を行う設備です。熱分解し発生した二酸化炭素の窒息効果と熱分解による冷却効果、燃焼の連鎖反応を阻止する負触媒効果等の複合作用によって消火します。 | |
第4種 | 大型消火器 | 定められた薬剤量で配合された水やその他の消火剤を圧力により放射して消火する器具のことです。規格によって性能が定められており、能力単位A火災10以上、B火災20以上の消火器のことを指します。 |
第5種 | 小型消火器および簡易消火用具 | 水やその他の消火剤を圧力により放射して消火する器具のことです。簡易消火用具とは、消火器以外の水バケツ、水槽、乾燥砂、膨張ひる石または膨張真珠岩のことで、消火器ではないが消防法および関係政令上、消火器の代替が可能なものを指します。 |
避難設備とは、災害の発生時に建物内の人が、安全かつ迅速に避難できるように設けられた設備のことで、大きくわけると「避難器具」と「誘導灯・標識」の2つに分類されます。
避難器具は、階段などの通常の避難経路を使って避難できない場合に用いられる避難ロープやすべり台、避難はしごなどの器具です。誘導灯・標識は非常口の位置や避難の方向を示すもので、照明装置が付いた誘導灯と、照明装置が付いていない誘導標識に分けられます。
代表的な避難設備は以下の通りです。
設備名 | 概要 |
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避難すべり台 | 火災などが発生した際、建物の高層階から地上に避難するためのすべり台です。防火対象物の窓などと地上とを台で連絡し、その台をすべり降りることによって避難します。建物に固定するため安全性が高く、特別な操作が不要で、短時間で多くの人が避難できるのが特徴です。 . |
避難はしご | 火災などが発生した際、建物の高層階から地上に避難するためのはじご型の設備です。立てかけはしごやつり下げはしご、固定はしごやフレームユニット型はしごなど、多様な形式があります。マンションなどでは、階ごとのバルコニーに上下階を結ぶ避難はしごと床面の避難用ハッチが設けられるのが一般的です。 |
救助袋 | 火災などが発生した際、建物の高層階から地上に避難するための袋状の設備です。鉄枠と布などから構成され、上層階から垂らした袋の内部をすべり降りて避難します。垂直にすべり降りる「垂直式」と、45度くらいの角度で張り渡してすべり降りる「斜降式」があります。 |
緩降機 | 火災などが発生した際、建物の高層階から地上に避難するためのロープ状の設備です。避難者が他人の力を借りずに自重により降下できるのが特徴です。避難者は、着用具と呼ばれる輪に体を通し、ロープに吊り下げられて降下して避難します。 |
誘導灯 | 火災などが発生した際、迅速かつ安全に避難・誘導するために設けられる標識です。非常口や避難通路を示すための発光式表示板であり、平時から常時点灯しています。四角や長方形の箱型の形状で、白地に緑、または緑地に白のマークが描かれており、天井や床に配置されるのが一般的です。 |
消防用水とは、消火のための水を確保するための設備のことです。消防法第7条には、法第十七条第一項の政令で定める消防用水は、防火水槽又はこれに代わる貯水池その他の用水とすると定められています。
消火活動上必要な施設とは、火災発生時に消防隊による消火活動の際に必要となる施設のことです。防火対象物の構造や形態などから、消防活動が困難と予想される高層階や地下階などにおける消防活動を支援するために設置されます。
代表的な消火活動上必要な施設は以下の通りです。
設備名 | 概要 |
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排煙設備 | 建物内で発生した火災から生じる煙を排除するための設備です。大別すると、自然排煙設備と機械排煙設備があります。自然排煙設備は、機械的な力を加えることなく、煙が上昇する原理を利用して窓などから排煙します。機械排煙設備は、天井に吸気口を設けてダクトを通して外部に煙を放出するなどして排煙します。 |
連結散水設備 | 地下階に設置されている消防設備です。火災発生時、地下階は煙や熱が充満することで消火活動が困難と予想されるため、連結散水設備が必要になります。連結散水設備は、散水ヘッド、配管、弁類、送水口などから構成されており、消防ポンプ車から送水口を通じて送水し、天井に設置した散水ヘッドから放水することで消火活動を支援します。 |
連結送水管 | 消防隊が消火活動を行う際、火災が発生した階まで送水するために設置される設備です。連結送水管は、送水口、放水口、放水用器具格納箱などから構成されており、消防ポンプ車から送水口を通じて送水し、消防隊が放水口にホースを接続することで消火活動が可能になります。 |
非常用コンセント設備 | 消防隊が消火活動をする際に使用する機器に電源を供給するための設備です。電源、配線、非常コンセント、表示灯などから構成されています。 |
無線通信補助設備 | 火災が発生したことを建物内の人に知らせるための器具です。拡声音や警報音などによって知らせるための警鐘・手動式サイレン・拡声器(メガホン)などが該当します。 |
消防用設備は、消防法によって定められた周期での「定期的な検査」と「管轄役所への報告」が義務付けられています。消防設備点検には、6か月に1度の点検が義務付けられた「機器点検」と1年に1度の点検が義務付けられた「総合点検」の2種類があります。
機器点検では、「消防設備が適切に設置されているのか」や、「設備に損傷がないのか」などの簡易的な動作確認を行います。総合点検では、消防設備を作動させて防火機能の総合的な確認を行います。
これらの点検は、「消防設備士」または「消防設備点検資格者」が行い、3年に1度消防署へ点検内容および結果を報告する必要があります。万一報告を怠ると「30万円以下の罰金又は拘留」に処せられる可能性があるので、注意するようにしてください。
消防設備点検で確認をする設備と、点検内容は以下の通りです。
設備名 | 概要 |
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消火器 | 設置場所の確認 ・動作確認 ・中身の交換 |
自動火災報知設備 | 専有部及び共用部の設置確認 ・動作確認 |
避難器具 | 格納場所の確認 ・動作確認 |
誘導灯 | ・誘導灯が点灯しているのかの確認 ・避難経路から誘導灯が見えるのかの確認 |
非常警報設備(非常ベル・自動サイレン) | ・動作確認 ・設置場所の確認 |
連結送水管 | ・ホースの劣化確認・動作確認 |
アパートやマンションで火災が発生してしまえば、大惨事になってしまいますので、定められた期間に点検を確実に実施しましょう。
アパートやマンションでは前述の通り、万が一の火災に備えて様々な消防設備が設置されています。ただ、消火設備にも耐用年数があるため、設置年数に応じて修繕もしくは取替えが必要になります。
ここでは、主な消防設備の耐用年数や取替目安についてご紹介します。
消火器は、一般的に「粉末ABC消火器」が設置されます。アパートやマンションの延べ床面積や建物の構造から設置本数を算出しますが、火災予防条例にも設置本数は定められているので、最寄りの消防署で確認してみましょう。
消火器の耐用年数は10年と言われています。基本的には、製造から10年経過している消火器であれば、新しいものに買い替える必要がありますが、中には消火器内部の薬剤を詰め替えるタイプのものもあるので、設置している消火器がどちらのタイプか確認する必要があります。
屋内消火設備は、一般的に水源、加圧装置、起動装置、消火栓箱および非常電源などで構成されています。構成の仕組みによって、2人で操作する「1号消火栓」や1人で操作できる「易操作性1号消火栓」「2号消火栓」という種類があります。
屋内消火設備の耐用年数は20〜25年程度と言われていています。ただ、消火ポンプと屋内消火栓は、設置から10年ほどで、分解点検修理(オーバーホール)を行う必要があります。
また10年間、火栓箱内に格納された消火ホースは3年に1度は耐圧試験を行い、ホースに異常は無いか確認する必要があります。
屋内消火設備の各部位ごとの「分解点検修理の推奨年数」と「交換推奨年数」は以下の通りです。
装置名 | 分解点検修理 推奨年数 | 交換 推奨年数 |
---|---|---|
消火ポンプ(加圧送水装置) | 10年 | 20年 |
ポンプ制御盤 | – | 20年 |
呼水装置 | – | 20年 |
吸水配管(サクション管) フート弁 | – | 10年 |
一般弁類 | – | 20年 |
屋内消火栓 | 10年 | 20年 |
自動火災報知設備は、「受信機」「感知器」「発信機」「音響装置」「中継器」「表示灯」で構成されています。
基本的には、火災が発生すると、感知器が自動で感知し、受信機へ火災信号を送ります。発信機は火災を発見した人が、付近の発信機を手動で押すことにより、受信機へ火災信号を送る仕組みになっています。
火災信号を受信した受信機は建物のベル・サイレン・音声等を鳴らし建物内の人に知らせます。また、連動設備がある場合はそのほかの連動設備へ信号を送ります。
自動火災報知設備の耐用年数は10〜20年程度と言われています。ただ、半年に1回の定期点検で不具合が発生している場合は、その都度部品の交換が必要になります。
自動火災報知設備の各部位ごとの「交換推奨年数」は以下の通りです。
装置名 | 交換推奨年数 |
---|---|
受信機 | 15年 |
受信機(電子機器部品を多用していない機器) | 20年 |
煙式感知器 | 10年 |
熱式感知器(半導体式) | 10年 |
熱式感知器 | 15年 |
発信機 | 20年 |
地区音響装置 | 20年 |
アパートやマンションでは、一般的に各部屋のバルコニー床面に金属の避難ハッチを埋め込むハッチ式の「避難はしご」が設置されています。その他にも消防法では、建物階数に応じて「すべり台」「緩降機」「救急袋」などの避難器具の設置が義務付けられています。
ハッチ式の避難はしごの耐用年数は、税法上の価値の目安となる「法定耐用年数」では8年と定められていますが、8年で必ず交換が必要というわけではなく、消防設備点検を実施した際に不具合が発生している箇所があった場合には、その都度交換を行います。
劣化の目安となる「物理的耐用年数」は、設置状況や使用可能年数にバラツキがありますが、おおよそ25年〜30年程度と言われています。特に、以下のような不具合を目安に交換を行うようにしましょう。
・建物竣工から時期が経っている
・本体に腐食がある
・枠の腐食で下の階へ雨漏れがある
スプリンクラー設備は、水源、加圧送水装置(消火ポンプ)、起動用圧力タンク、自動警報装置(流水検知装置、表示装置、警報装置等)、スプリンクラーヘッド、補助散水栓、送水口、配管・弁類及び非常電源等から構成されています。
水の出口が常に閉じられている「閉鎖型」と、水の出口が常に開いている「開放型」の2種類があり、11階以上のマンションでは設置が義務付けられています。
スプリンクラー設備の耐用年数は、法定耐用年数では、8年と定められていますが、各部位ごとの「交換推奨年数」は以下の通りです。
装置名 | 交換推奨年数 | |
---|---|---|
スプリンクラーヘッド | 閉鎖型スプリンクラーヘッド | 18~20年. |
感知用ヘッド | 8~10年 | |
ステンレス鋼鋼管 | 30~40年 | |
流水検知装置 | 湿式 | 18~20年 |
乾式 | 17~20年 | |
予作動式 | 17~20年 | |
一斉開放弁 | 17~20年 |
アパートやマンションでは、火災に備えて様々な消防設備が設置されています。設置基準や設置場所などは消防法や消防法施行令で定められ、定期的な点検が義務付けられています。
もし点検の未実施や虚偽報告があった場合には、消防法第44条の罰則が適用され、30万円以下の罰金又は拘留となる可能性があるので注意が必要です。
消火設備は耐用年数があるため、設置年数に応じて修繕もしくは取替えが必要になります。大規模改修を検討されている場合には、消防設備の交換や修繕も念頭に置いて工事計画を検討するようにしましょう。
大規模改修を検討している場合は、ぜひ一度アパマン修繕テックにご相談ください。